いじめの話 -教員と保護者をはじめとする世間の見解の違い-

さて、まじめな投稿をしようと思う。

突然ではあるが、読者に問題を出してみようと思う。

以下の事例のうち、正しいものはどれか。

 

①Aさんは、ある国語の問題を解いていたがどうしても解けなかった。ずっと考えていると、横からZさんが「それはこうやって解いたら良いんだよ」と教えた。一人で解きたかったAさんはZさんに対して嫌な気持ちになった。これは、ZさんがAさんに対して行った「いじめ」である。

②BさんはCさんの筆箱を隠した。それに腹を立てた、CさんはBさんを蹴った。隠したのは悪いが、蹴るまでしなくても良いとBさんは嫌な気持ちになった。これは、CさんがBさんに対して行った「いじめ」である。

 

③クラスのグループラインとは別にクラスメンバーのDさんにはバレないよう、Dさん以外のグループを作った。Dさんはそのことを知らない。毎日、「今日のDきもくね?」という投稿が往来しているが、Dさんもいるグループラインも明日の連絡などが流れており、Dさんは気づいていない。これは「クラスメンバー」が「Dさん」に対して行ったいじめである。

 

④大学生になったEさんは、高校までのメンバーとは離れ離れになり、新しい生活を始めた。しかし、1年生の5月6月ごろから、自分に対する悪口が聞こえ始め、「うざいから大学に来るな」というLINEや口頭で責められた。教授に相談したが、「うざいことをしているんだろう。私に相談するな」とつっぱねられて、自殺を図った。これは、「大学の同期」がEさんに対して行ったいじめである。

 

 

少々長くなってしまったが、これの答えは「①、②、③」である。④はいじめではない。

上記それぞれ架空の出来事であるが、気分を害された方は申し訳ない。それぞれについて説明をしたい。

ここでいう「いじめ」とは「いじめ防止対策推進法」(以下、いじめ法と略記する)という法律にある「いじめ」の定義に則ったものである。事実上④はたしかにいじめであろうが、その定義では④はいじめに該当しない。

以下のリンクにあるように

第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

ということである。

 

別添3 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号):文部科学省

ポイントは、

  1. 「児童等に対して」
  2. 一定の人的関係にある他の児童等が
  3. 心理的物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む)
  4. 心身の苦痛を感じているもの

の4つである。

①は4によりいじめであるのだ。「助け合い」といういじめの間反対にある行為が「本人の受け止め方」でいじめになるというのは、世間とのズレであろう。

ズレ① 「本人が苦痛」であれば、たとえ助けであってもいじめになる。

②は「先に筆箱を隠したCが悪い」となるだろうが、これは「CがBをいじめた」と同時に「BがCをいじめた」として報告を上げる。別案件として取り扱うのが正解である。

ズレ② 「本人が苦痛」であれば、どちらが先に手を出したかは関係なく、いじめである。

④はいじめではない。児童等と学校等とあるが、ここでいう学校は「小中高と、その学齢に在籍するであろう他の施設」である(詳細は、学校教育法にある)大学は含まれない。

そして児童とは、小学校に在籍する子どもを指す。すなわち大学生は含まれない。実事例を出すと、ある幼稚園児がいじめを受けてその両親が訴えを起こしたが「いじめの定義が小学生以上である」ことから、困難を極めたという事例がある。本人のプライバシーのためにここではこれ以上は割愛する。

いじめを認知した教員、認知とは教員が認めたということではなく、報告を受けたその瞬間をさすが、この教員は学年と管理職(教頭を筆頭にした校長など)に報告義務を生じる。そのさい報告書とともに挙げるべきである。

 

さて、これからもズレを考えていきたいが、読者の中に「重大事態」の定義をご存知の方はいるだろうか。いじめ法によると、以下の項目が重大事態である。

その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

これはいわゆる「第三者調査委員会」を設立しなければならない、基準ということである。

つまり以下の事例は重大事態案件である

「部室の中で、トランプで遊んでいたAさんは、ババ抜きでドベになってしまった。先輩のBさんが「負けたし、全員に奢りな」と言い、部員全員がそのノリをしたため奢らざるを得なく、120円のジュースを、10人分買い、嫌な思いをした」

 

 

読者の皆さんの中には、もうお気づきかもしれないが

「教員負担、重くね??」

そう、いじめ法はあまりに「いじめ認定」範囲が広いのである。の割には、④がいじめでないという、改良の余地がある法律である。しかし、「本人が心身の苦痛」という文言がなければどうなるかというと、「全員が無視する」という「全員が何もしなかった」場合に、「いじめ認定」できないのだ。

これは、”全てのいじめ被害者”を守るために、”いじめではない他のケースも含める”という措置の法律なのである。

そして、だからこそ教員が報告しないといけない件数が跳ね上がるのである。いじめに重い軽いはない。たとえ①のケースだろうと、④のケースが中学生で行われてた場合でも、同じ真剣さで取り組まなければならない。

ズレ③ いじめ法によると、どのような児童生徒も、いじめをした可能性があるし、された可能性がある。

 

そして、ここからが本題である。

Twitterなどを見ていると、「教員が全然動いてくれない」「加害者は転校させるべきだ」などの声がよく聞こえてくる。前者に関しては同じ教員(を目指している人間)として、不甲斐なく思う。申し訳ない。被害者の心のケアが何よりも大事だと思う。

しかし、後者に関しては「待ってくれ」と言いたい。

ここからは法律は関係ない、教員として私の一意見だ。だからこそ、反対意見は聞かせてほしいし、賛成だとしてもあなたの言葉で教えてほしいと思う。

ズレ(?)④ 学校は司法機関では無く、教育機関である。

法律は関係ないと言ったが、「いじめ法」には加害生徒に対する措置が書かれている。要約すると、「必要に応じて、被害生徒と別室で勉強させたり出席停止にして、被害生徒が安心して学べる環境を作ること」とある。(いじめ法23条、26条)

しかし同時に日本国憲法26条には「すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」とある。全ての国民なので、北海道民だろうと沖縄県民だろうと、富裕層であろうと貧困層であろうと、部落差別を受けていようと、理系だろうと文系だろうと、そしていじめ加害者だろうと被害者だろうと、教育を受ける権利があるのだ。

我々教員としては、当然いじめの被害者の「教育を受ける権利」を保障しなければならない。しかし、いじめ加害者の「教育を受ける権利」も保障せねばならない。当然、裁判所命令で、加害者が引っ越すことになればその手続きを行う。しかし、たとえ他の学校が受け入れてくれることになっていようと「出ていけ」というのは大変に難しいことなのである。

 

そして何より我々が気にしないといけないことは、「いじめの主犯」(犯という言葉は使いたくはないのだが)の背景を見ないといけないことだ。

大前提は言っておく。いじめはいけないことだ。いじめ法にもあるが、法律の話じゃない。人として言っている。だけど、たとえば「いじめ主犯の両親は、ともに虐待をおこなっており、言うことを聞かないやつは殴って聞かせるものだ。という価値観の元育った」という背景があればどうだろう?「両親背景がそうである家庭で、そのストレスの発散を、学校のクラスメートに行っている」のであればどうだろう?我々が行うのは本当に、「一人にして反省させる」で良いだろうか?引っ越しでいいのだろうか?否、児相と協力し、家庭環境の改善を図ることである。それは、「次なる被害者を生み出さない」ことにある。次なる被害者とは、「引っ越し先の児童」であり「両親に虐待を受けている加害生徒」のことである。他にも、引っ越したはいいが風の噂で「あいつ、いじめをしてたから引っ越してきたらしいよ」といういじめを受けるかもしれない。「”たとえどんな理由があろうとも、いじめを許してはいけない”」のであれば、いじめをしていた人間をいじめても良くないし、それが想定されるなら未然防止するのが教員の役目だと思う。

長くなったが要は、「教員として、加害生徒にする行為は、加害生徒の心の声を聞くことであり、指導であり支援なのだ」ということだ。被害生徒ならびにその保護者からすれば、「加害生徒の肩を持った」と言われるかもしれない。それは断じて違う。どちらも同様に大切な人権なのだからこそ、加害生徒も見ているだけだ。被害生徒の支援は当然考えている。どうかそれだけは知っていてほしいと思う。